先を読む経営と今を知る会計とは ~予実管理の意義とポイント~
1. 業績管理
業績管理とは、企業が目指す目標に対してどの程度成果を上げているかを測定・評価し、その結果に基づいて適切な対応を行う一連の管理会計のプロセスです。業績管理の対象となる活動には、成長のための投資や効率的な資源配分など、企業全体のさまざまな経営活動が含まれます。中でも特に重要な対象が、売上や利益などの財務指標です。
2. 予実管理とその重要性
業績管理の一部として行う予算編成、実績集計、予実分析、見通策定等の一連のプロセスを予実管理といいます。予実管理は、管理会計・業績管理の中でも特に重要な役割を果たします。なぜなら、経営者は会社の財務状況を把握して適切な意思決定を行う際、予実管理を通じて目標達成の進捗状況を確認し、問題があればその原因を見つけて対策を講じることになるからです。そのため、予実管理は経営方針や戦略の調整を行うことに役立ちます。企業を持続的に成長させる上で欠かせない、業績管理を支える基本的な管理行為といえるでしょう。
以下では予算と実績の意義、前年実績や当年予算との対比の価値と限界、そして予実管理の理想的な姿について説明します。
3. 予算の意義
予算とは、企業が将来の事業活動を計画する際に、収益や費用の見込みを貨幣的に定量化したものです。そして、経営者の事業方針や将来の方向性を反映した「意思の表明」でもあります。
たとえば、「新たな市場への進出」や「新規事業の立案・実行」は、様々な活動や多額の投資から成り立っています。そして、これらの活動や投資を成功させるためには、「どの程度のコストを要するのか」「どの程度の収益が見込まれるのか」「どの程度の利益を生み出すのか」「どのくらいの期間を要するのか」などを見積もって実行していく必要があります。予算は、このような活動や投資による収益や費用の見込みを定量化したものです。企業は予算を設定することで将来への道筋を明確に描き、リソースの効率的な配分を実現できます。
4. 実績の意義
実績とは、企業が実際の事業活動によって生じた収益や費用を、会計ルールに従って記録・集計したものです。過去の経営判断や施策が、結果的にどのような成果につながったかを示す重要なデータとなります。
たとえば、前年度に立ち上げた新規事業が予定通りの利益をもたらしたかどうかは、実績を用いて分析・評価することができます。この評価をもとに、経営者は次の施策を決定するための材料を得るのです。
5. 前年実績と当年実績の対比の価値と限界
企業の業績を評価する際は、前年の実績と当年の実績を比較することが有用です。たとえば、前年よりも売上が増加していれば事業が成長していると判断できますし、減少していれば何かしらの改善が必要だと気づけます。
しかし、この比較には限界もあります。前年と今年の状況は、まったく同じではないことが多いでしょう。外部環境の変化や市場の状況、新しい競合の出現、新規事業の立案と実行など、さまざまな要因が影響するためです。そうなると、単純な前年実績との比較だけでは、十分な分析ができません。
また、前年実績との比較だけでは、現状を追認するだけの後ろ向きな「現状ベース」の分析・評価になりがちです。そのため、外部環境や企業内部の変化も考慮した、「将来ベース」での分析・評価の観点も必要になります。そして、このような「将来ベース」での分析・評価の観点が、まさに「当年の予算と当年の実績」の比較です。これについては、次項で詳しく説明します。
6. 当年予算と当年実績の対比の価値と限界
予算は企業の将来の活動や投資計画を定量的に表現したものであり、実績はその計画に対する現実の成果です。これらを対比することで、計画通りに事業が進んでいるか、計画との差異がどの程度あるのかを確認できます。
たとえば、予算で立てた売上目標に対して実績が下回っていれば、その原因を分析して今後の対応策を講じられます。これは、予算が将来の活動や投資の「見込み」であるため、結果的にそれらの「見込み」がどのように食い違ったのかなどを、その一つ一つの観点・要素を通じて振り返って考えられるからです。
このとき、現状の追認的な「現状ベース」の比較とは異なり、比較対象の数字に将来への意思(見込み)が盛り込まれています。そのため、どこに食い違いが起きたかを深く分析したり、有効な対応策を講じたりすることができるわけです。
7. 業績管理における予実管理のあるべき姿
予算の有用性について説明しましたが、一方で、予算も予算編成時の将来予測に基づくものでしかありません。予算編成後の予想外の事態や市場の変化によって、当初の見込みと実際の状況が大きく乖離することがあります。そのため、予実管理は単に予算と実績の対比を行うだけではなく、定期的な見直しと修正のプロセスを含めるべきと言えます。
そのための手法の一つとして、「ローリング予算」が挙げられます。これは、一定の期間ごとに予算そのものを更新する手法です。たとえば四半期や1ヶ月ごとに、既に経過した期間の予算に変えて後続の期間の予算を加え、予算そのものを更新していきます。これによって、常に最新の1年分の予算を保持するという手法です。
しかし、ローリング予算は予算編成の業務・作業を一定の期間ごとに行わねばなりません。また、その情報収集に手間と時間を多く要するため、実行はとても困難です。そこで、別の手法として「見通しとの比較」があります。
多くの場合、「見通し」は当年度の実績に当年度末までの見込みを足し合わせたものを指します。「見通しとの比較」では、固定的な年度予算とは別で一定期間(四半期ごと 等)ごとに当該期間の実績を集計し、他方でその時点から年度末までの見込みを、当該時点の最新の情報等に基づいて算定します。そして、これらを足し合わせた数字(見通し)を、続く期間における予実管理の比較対象の一つとするのです。そうすることで、固定的な年度予算という前年度末の予測との対比だけではなく、より近い時点の予測との対比が可能となり、さらに現実に即した予実の分析・評価が可能となります。
8. まとめ
このように、予実管理は企業の業績管理において、極めて重要かつ基本的な管理行為です。そして、その効果を最大限に得るためには、「事業における活動や投資の内容に基づく予算の策定」「予算と実績との対比」「予実の分析・評価における定期的な見直しと修正のプロセスの組み込み」が必要になります。